つくば宇宙理論コロキウム
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第58回
天の川銀河と局部銀河群における矮小銀河の観測を用いた,ダークマターの量子的な性質の探査
レンセラー工科大学
要旨
天の川銀河のようなハローにおける伴銀河(衛星銀河)の数は,ダークマターのモデルを識別する上で極めて重要な役割を果たします。特に,ある質量スケール以下で下部構造(サブストラクチャー)の抑制が予測されるダークマターモデルにおいて,その役割は重要です。近年注目を集めているモデルの一つが,量子/ファジーまたは波動ダークマターモデルです。このモデルでは,ダークマターは非常に軽い粒子(約$10^{-22}-10^{-21}$eV/$c^2$)であると仮定され,小スケール構造の急激な抑制が予測されます。しかし,その根源的な量子場の干渉効果を捉えることは,既存の計算コードでは数値的に困難でした。 本発表では,GAMER-2コードに新たに実装された流体・波動ハイブリッドスキームを用いることで,ダークマター粒子質量が $m=2\times10^{-23}$ である天の川銀河サイズのハローの,自己無撞着な波動ダークマター宇宙論シミュレーションに成功したことを示します。このシミュレーションは,親ハロー(ホストハロー)のソリトン状のコアを解像すると同時に,サブハローの複雑な潮汐進化を宇宙の現在(赤方偏移 $z=0$)まで捉えることができます。 この講演では,孤立した矮小質量ハローにおける波動ダークマターが及ぼす影響と,天の川銀河質量の親ハロー内部での波動ダークマター・サブハローの進化について議論します。また,近傍の矮小銀河の伴銀河数や力学的質量の観測から,この量子様仮説に対して与えられる現在および将来の制約について,どのような意味を持つかについても言及します。